夕暮れ時。
太陽が傾き、辺りは橙色に染まってゆく。
子供たちは遊ぶのをやめ、年長の数人は夕食の準備の手伝いへと家に入る。
小さな子たちはまだ遊び足りないのか、トリイやハロたちと家の前で跳ね回っていた。
ハロを追い掛けながらはしゃいでいた幼い少女が、海岸の方からこちらに向かってくる人物に気がつき、あっと声を上げた。
「キラおにいちゃんだ!」
少女は喜色を浮かばせ、こちらに向かってきた人物――キラに駆け寄る。
他の子供たちもキラに気付き、同じように駆け寄っていった。
「おかえりなさーい」
「おかえりー」
「おかえりなさい!」
満面の笑顔で足にしがみついてくる子供たちに、キラは驚いたように目を瞬く。
しかしすぐに口元をほころばせ、子供たちに視線を合わせるようしゃがんだ。
「うん……ただいま」
迎えてくれた子供たち一人一人の頭を撫でながら、キラは優しく微笑む。
頭を撫でられた子供たちは気恥ずかしそうに、それでいて嬉しそうに笑った。
「ねぇ、キラおにいちゃん。今日も海にいってたんでしょ?」
「そうだよ」
「どうしていつも海に行くの?何かあるの?」
毎日のように海へ足を運ぶキラへの、子供の純粋な質問だった。
尋ねてきた子供以外も気になっていたらしく、キラに注目する。
何対もの期待に満ちた視線に、キラは苦笑した。
「んー……難しい質問だね」
「ムズカしいの?」
「どうして?」
「なんで海にいくのかわからないの?」
矢継ぎ早に聞いてくる子供たちにキラは渇いた笑いをもらす。
「そうだね、実は僕もどうして海に行くのかわからないんだ」
「わからないのに行くの?」
子供たちは不思議そうに目をしばたかせる。
「うん。わからないから、行くんだよ」
そう言うと、子供たちはますます混乱したようで、互いに顔を見合わせた。
キラはふっと笑い、あのねと言葉を続ける。
「僕は今、探しものをしてるんだ」
「さがしもの?なぁに?」
「……生きる意味、かな」
呟くように、キラは言った。
たった一言だが、重い重い言葉を、キラは言った。
しかし、幼い子供たちにそんなものがわかるはずもなく、
「いきるイミ?」
反復して、きょとんと首を傾げる。
そんな子供たちに、キラは紫の瞳を細め、穏やかに微笑んだ。
「難しいこと言って、ごめんね」
そう謝るキラに、一人の少女がおずおずと口を開いた。
「あ、あのね!」
「え?」
「あのね、明日はわたしもいっしょに海に行く!」
小さな手をきゅっと握り締め、少女は意を決したように言う。
「それでね、キラおにいちゃんのいきるイミをいっしょにさがすの!さがしものはみんなでさがした方が、はやく見つかると思うの!」
少女の思わぬ言葉に、キラは目をみはった。
少女はきっと“生きる意味”というものは海に落ちたりしているものだと勘違いしているのだろう。
しかし、もちろんキラはそんなことに驚いたのではない。
一緒に探すと言ってくれたことに、驚いたのだ。
「え、と……」
「ずるーい!あたしも一緒に行く!」
「ぼくもいっしょに探してあげるー」
「みんなで行けばいいんだよ!」
言葉を失うキラを前に、他の子供たちも名乗りを上げた。
キラはますます開いた口がふさがらない状態になる。
そんなキラに、最初に言った少女が恐る恐る声をかけた。
「キラおにいちゃん……?」
不安気な少女の声に、キラははっと我に返る。
子供たちを見まわし、何度か瞬きをし……
「……あ、ありがとう………」
と、はにかんだ笑みを浮かべた。
少女や他の子供たちは、ぱぁっと顔を輝かせる。
「じゃあね、やくそく!」
そう言って少女はキラに小指を差し向けた。
キラはその小さな指に自分の小指を絡ませ、指きりの誓いを交わす。
「うん、約束………」
きゃあっと子供たちは歓声に似た声を上げた。
そして早速皆で明日はどうするか話し合い出す。
そんな子供たちを見ながら、キラは胸に広がる暖かなものをかみ締め、ぽつりと呟いた。
「………ありがとう」
明日はみんなで海に行こう。
これは約束。
絶対に守る約束。
そう、きっとこれも…………
一つの生きる意味――――。
<END>