家を明るくしていた日の光も、子供たちの声もなくなった夜更け。
キラはテレビの前のソファーに座り、まっすぐに画面を見つめていた。
写るのは“外”の様子。
自分が離れた“外”の世界。
この世界の戦後の混乱は少しずつ治まっていき、一年以上経った今では平和だと言える光景もちらつく。
何を思うでもなく流れる画面を見ていたキラは、ふと見知った姿が写ったのに気がついた。
「……カガリ……?」
共に戦った友人であり、双子の姉――妹かもしれない――のカガリ・ユラ・アスハである。
彼女は現在中立国オーブの代表として世界を駆け回っており、この映像もどこかの代表との会談を写したものだった。
「アスランもいるのかな………」
画面には写ってはいないが、きっとカガリのすぐ近くで気を張っているであろう親友の姿が目に浮かんだ。
顔の半分をサングラスで隠して口をへの字に曲げる様が妙に鮮明に浮かび、キラは笑いを漏らす。
「あらあら。何がそんなにおかしいんですの?」
ふいに響いた声にキラは目を瞬く。
声の主は誰か確認しなくてもわかった。
「ラクス」
名を呼びながらキラが肩越しに振り返ると、ラクスはにこっと笑って見せた。
「お隣、よろしいですか?」
ソファーの、キラが座る隣の場所を指差しながら尋ねてくるラクスに、キラは頷く。もう少し端側により、スペースを広げた。
ラクスはありがとうございます、と言いながらキラの隣に腰を下ろした。
「あら、カガリさんですわ」
テレビの画面に目をやったラクスはカガリの姿を見とめ、嬉しそうに両手を合わせる。
最近会っていないので、元気な姿に安堵したのだろう。
「うん、多分もっと端の方にアスランがいると思うんだ。あの大きなサングラスをつけて」
「まぁ、ですからキラは笑ってらしたのですね?」
「……アスランには内緒だよ」
「はい」
ラクスはくすくすと笑い、キラも微笑を浮かべる。
その後、しばらく二人でテレビを見ていたが、カガリの姿が画面からなくなると、思むろに電源を消した。
夜の静けさが二人を包む。
ふいに、ラクスが思い出したかのように口を開いた。
「そういえば、キラ。明日は子供たちと海に行くらしいですね」
「あ、うん。聞いたんだ」
「はい。それはそれは嬉しそうに話してくれましたよ」
ふふと口元に手を当てラクスは笑う。
キラは昼間の出来事を思い出しながら、口元を緩めた。
「僕も……嬉しかった」
子供たちとの約束。
それは、凍っていたキラの心に、微かだが確実に変化をもたらしてくれた。
暖かく、くすぐったいものが胸に溢れ、キラは自然と穏やかな表情になっていく。
そんなキラをラクスは優しい眼差しで見つめていた。
「……私も、嬉しいですわ……」
「え……」
呟くような言葉に、キラはラクスに目を向ける。
澄んだ空色の瞳と、かちあった。
「………私は、あなたが少しでも笑ってくれることが嬉しい……あなたに喜びが少しでも訪れてくれていることが嬉しい……」
そう言いながら、本当に嬉しそうに、幸せそうに微笑むラクス。
「ラ、クス………」
キラはあまりのことに言葉を失った。
自分はこんなにも彼女に心配をかけていたのか。
彼女は、こんなにも自分を想ってくれて――――――
キラは自分に対して、恥ずかしさと情けなさを感じた。
そしてラクスに対して、それ以上の愛しさを感じた。
思むろにラクスに手を伸ばし、抱き寄せた。
柔らかで華奢な体は、1年前より成長した自分の腕に綺麗に収まる。
「キラ……?」
突然抱きしめられ、ラクスは驚きに目を瞬かせた。無意識に体が強張る。
「キ……」
「……ごめん、少しだけ……少しだけだから………」
ラクスの髪に顔をうずくめ、キラは切実な声でそう言った。
そんなキラに、ラクスは体の力を抜き、身を委ねた。
「いつまでも、こうして下さってよいのですよ………私はずっとあなたの傍にいるのですから………」
囁くように言い、ラクスはキラの背に手を回して優しく抱きしめた。
キラは泣きそうになるのを必死にこらえる。
「……うん……ずっと傍に、いて………」
生きるから。
辛いけど、苦しいけど、生きていくから。
どうか傍に、傍にいて。
生きる意味。
見つける時は、君が傍にいる時だと、確信できる―――――――
END
‐あとがき‐
宣言どおり、『respite』の続きです。
宣言どおり、甘くないです。(そぅでもなぃ?)
運命までの2年間に、こんなやり取りがあったらいいなーという四葉の願望です。
でも、多分ですがキラとラクスは2年の間特に進展はなかったでしょう(泣)
いやだってもうカップルとかそういう域越えて、老夫婦並みの熟年ぶり。
アスカガのごとく照れて赤くなったりとかはないでしょうね。
だけどその分妄想のしがいがあるのですよね!!!(ぇ)
あぁ〜楽しい♪
up:04.12.12
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