voice
 
 

「さ、寒い………」
 
白い息を吐き出しながら、シンは体を縮こまらせた。
がちがちと歯が擦れ合い、音を立てる。
 
厚手のコートにマフラー。それに耳まで隠せるニット帽。もちろんコートの下は着膨れしすぎない程度に着込んでいる。
 
それでも肌を刺す寒さに、シンは震えずにはいられなかった。
 

「ステラ……遅いなぁ………」
 
ずずっと鼻を啜りながら、シンは辺りを見まわしてみた。
 
周りは見事にカップルだらけ。
体を寄せ合い、皆同じ方向に向かって歩いていく。
 
今シンが立つ場所は、あるテーマパークのエントランス。
今日は大晦日で、このテーマパークではカウントダウンを行い、元旦を迎えると同時に盛大な花火が打ち上げられる予定だ。
それを恋人と見て新年を迎えようと考えるカップルは多いようで、皆続々と入っていく。
 
かくいうシンも、ステラと花火を見る約束をして、ここで待ち合わせているのだった。
 
コートのポケットを探り、シンは携帯電話を取り出した。
前まで持っていた、妹の形見ではなく、自分の携帯だ。
あのピンクの携帯は、家の引き出しに大事にしまっている。
 

シンは携帯の液晶をのぞき、時間を確認する。
 
「20時45分………」
 
待ち合わせは、20時30分だったはずだ。
その時間からカウントダウン専用のチケットが有効になる。
 
シンはどうしたものか、と悩んだ。
連絡を入れるべきか、もう少し待つべきか。
 
ただの遅刻の可能性は大きいが、やはりステラの身に何かあったのなら大変なので、携帯のリダイアルでステラの番号を表示する。
ピッと通話ボタンを押し、呼び出してみる。
 
しかし、中々出ない。
 
やはり何かあったのだろうか。
 
心配に胸をざわつかせ、シンは思わず駆け出そうとした。
 
しかし。
 
踵を返したシンは、ぎょっと目を剥く。
 
「ス、ステラっ」
 
いつの間にか、ステラが背後に立っていた。
こちらも厚手のコートにマフラー、そしてイヤーマフをしており、スカートにブーツの足元以外はしっかり防寒している。
 
声をかけようとしたところをいきなり振り向いたシンに、ステラも目を瞬かせた。
 
「シン……どこか、行くの?」
「い、いや……ステラを探しに行こうと………」
「………どうして?」
 
ステラは不思議そうに首を傾げた。
そんなステラに、君が遅かったからだよ、と言えるはずもなく、シンは薄笑いで頬を掻く。
 
「えーと………あ、携帯」
「携帯?」
「うん、かけたけど、ステラ気付かなかった?」
「………」
 
目をしばたきながら、ステラは肩から下げたポシェットに手をやる。
ごそごそと折りたたみ式の携帯を取り出し、パカッと開いた。
 
「………あ、着信………」
「あった?」
「うん………ごめんね………」
 
少し、しゅんとしたようにうなだれたステラに、シンは首を振る。
 
「いいよ。多分……これのせいだろうな」
 
ステラの耳元を覆うイヤーマフを指で軽くつつき、シンはくすくすと笑った。
ステラはあ、と声を上げ、
 
「……じゃあ、これ……いらない」
 
と、イヤーマフを外した。
そんなステラに、シンは目を丸くする。
 
「外さなくてもいいよ。寒いだろ?」
「でも……これをしてると、聞こえづらいから………」
「え、携帯の音なら………」
 
バイブにしておけば平気、と言うシンに、ステラはふるふると首を振った。
そして、シンを見上げながら
 
「携帯の音じゃないの…………」
「え?」
「……シンの、声………」
「………俺の、声?」
 
意味を掴みそこね、シンは目を瞬かせる。
ステラはこくんと頷き、うつむきがちになりながらぽつりぽつりと言った。
 
「シンの……声、聞きづらくなるの………嫌」
 
だから、これいらない。
 
そうはっきりと言うステラに、シンは呆然とする。
しかし、どんどんその顔は赤く染まっていった。
隠しきれない照れと嬉しさを見せたくなくて、シンはステラに背を向けた。
 
そしておもむろに自分の頭からニット帽を取る。
 
「………シン?」
 
シンの行動に、今度はステラが驚いたように目を丸くした。
そんなステラに、シンは振り返ることなく
 
「俺も……ステラの声が聞き取りにくいの嫌だからっ」
 
だから、これいらない。
 
そう言って、ニット帽をカバンにしまい込むシンに、ステラはきょとんと目を瞬かせた。
 
少しだけ、二人の間に沈黙が流れる。
 

しかし、ふいにステラがシンの腕にしがみついた。
 
驚きに目をみひらき、シンはステラを見遣る。
 

紅い瞳と、緋色の瞳がかち合った。
 

シンの胸がとくんと優しく脈を打つ。
 
そのまま声を失ったシンに、ステラは淡い笑みを向けた。
 
「行こう、シン………一緒に花火、見よ?」
 

しっかりと耳に届く、彼女の声。
 

「………うん、行こうか」
 

鮮明に鼓膜を打つ、彼の声。
 
 
 
肩を並べ、二人で歩く。
 
その間に交わす言葉は、互いに一言一句聞き逃すことはない。
 
 
 
新しい年を迎えるその時まで。
 
迎えるその瞬間。
 
迎えた後も。
 
 
 
一番耳にしたいのは、君の、あなたの、
 
 
 

愛しい声――――――
 
 
 
END
 
 
 

 
‐あとがき‐
 
1月1日より配布してましたお正月小説シンステverです。
もう配布は終了してますので、お持ち帰りはご遠慮下さい。
 
これはやっとまともにシンステを書いたなー……という気になれた作品です(苦笑)
私の理想シンステv
 
ステラはぽけぽけしててほしいですv可愛いからvvv
 
そしてシンはそんなステラに翻弄され続けて欲しいvv(ぇ)
 
UP:05.01.01