ふわふわと、ピンクの髪が舞う。
あちらこちらに彼女が身を翻すたびに、舞い踊る。
明るい笑い声を上げながら逃げ回る子供達を捕まえようと、彼女は軽やかなステップを踏む。
そしてまた、ピンクの髪は舞う。
キラは、それを見ているのがとても好きだった。
何もせず、椅子に腰掛けながらただその舞を見つめる。
時には花の咲いたような彼女の笑顔にも目をやるが、それはすぐに逸らしてしまう。
頬が、熱くなるからだ。
無償に気恥ずかしくなり、鼓動が速くなる。
何回見ても、彼女の笑顔には胸が過剰反応してしまう。
だから、彼女の髪を目で追っていた。
紫の瞳は、きょろきょろと動く。
ピンクの髪が舞うのに合わせて、あちらこちらへと向けられる。
耳には、子供達の笑い声と、彼女の優しい声。
キラはこの時がとても好きだった。
スターチス
「やっと眠ってくださいましたわ」
ふぅと息をつきながら、ラクスはキラの隣に腰を下ろした。
「皆さん、中々ベッドに入ってくださらないんですもの。追いかけっこは疲れます」
困ったようにラクスはほんの少し唇を尖らせる。
そんなラクスに、キラはくすくすと笑った。
「でもラクス、楽しかったでしょう?」
キラにそう指摘され、ラクスは目を何回か瞬かせる。
そして思い出すように視線を泳がせ………
「……えぇ、とっても楽しかったですわ」
そう言って、ラクスははにかみとも苦笑ともとれる笑みを浮かべた。
キラは穏やかに微笑み、おもむろに手を伸ばすと、ラクスの頭を撫でた。
「お疲れさま」
「………」
慈しむような優しい声と言葉に、ラクスは瞼を閉じキラの肩に頭を預ける。
「はい………ありがとうございます」
呟くように、ラクスは言った。
位置的に表情は読み取れないが、キラにはラクスが嬉しがっているのが声でわかる。
ほんのりと、胸が暖かくなった。
頬が熱くなりかけているのから逃れるように、キラは目線を下に落とす。
すると、ピンクの髪が膝の上に流れてきているのに気がついた。
「………」
無意識に髪を手に取る。
細い絹のような手触り。
ピンクという鮮やかで華やかな色。
長くゆるやかなウェーブが、柔らかそうな印象をつける。
先程のように、遠くから舞い踊るのを見ているのもよかったが、こうやって手近にあるのはもっといいな………
そんな風にキラは思う。
「……キラ?」
まじまじと髪を見ながら黙ったキラに、ラクスはきょとんと目を瞬かせた。
キラの肩から顔を離す。
「あ………」
するりと、自分の手から逃げていった髪に、キラは残念そうな声を上げた。
それにますますラクスは目を瞬かせ、キラの顔を覗き込んだ。
「キラ、どうかされました?」
「え、あ、いや………」
首を傾げるラクスに、キラは困ったように頬を掻いた。
何となく、気恥ずかしい。
キラは乾いた笑みをもらしながら、
「えーと……ラクスの髪って、すごく綺麗だよね」
とだけ言っておいた。
もっと他にも感想はあるのだが、照れが出てきて言えなかった。
それでも、ラクスはぱぁっと瞳を輝かせる。
「まぁ、本当ですか?キラにそう言って頂けて、とっても嬉しいですわ」
「そ、そう?」
「はいっ」
大きく頷き、ラクスは満面の笑みを浮かべた。
明るく、晴れやかな。
花の、咲いたような笑顔。
キラは目を大きくみひらいた。
「………っ」
あぁ、また。まただ。
頬が熱い。
鼓動が速い。
息が、すごく苦しい――――――
口元を手で覆いながら、キラは天を仰いだ。
いつまで、こうなのだろう。
いつまで、この過剰反応は続くのだろう。
………きっと、いつまでも続く。
初めて出逢ってから、ずっとずっとこうだった。
二年経っても、それは変わらなかった。
だから多分、
ずっとこんな調子なんだろう。
彼女の笑顔に、いちいち顔を赤くして、心臓の動きを活発にするんだろう。
これはとてもおかしな確信だが、キラにはそれが事実だという自信が、なぜかあった。
舞い踊るピンクの髪を見つめるのが、好きだ。
流れるピンクの髪を手にするのが、好きだ。
だけど。
彼女の笑顔を見るのは、好きすぎて、大変だ。
END
スターチス(ピンク):花言葉『永久不変』