「綺麗………」
 
ほぅと息をつきながら、ステラは呟いた。
 
彼女の瞳に写るのは、光り輝くイルミネーション。
それは道の上をアーチ状に飾り立てている。
 
『光の魔法の道』
 
ここはそう呼ばれる場所で、クリスマスシーズン限定で開かれているものだ。
アーチ状のものはもちろん、サイドや歩くアスファルトにも光の魔法が施されている。
 

闇夜に映えるその美しさに、ステラはすっかり魅了されていた。先ほどから何度も感嘆の息をもらしている。
 
ステラの隣を歩くシンは、その様に微笑んだ。
 
「来てよかったね、ステラ」
「………うん」
 
光からは目を放さず、ステラは頷く。そしてまた息をついた。
シンは小さく笑いを漏らす。
 
光に心奪われる姿が何とも可愛く思えて仕方がない。
 
ただ少しだけ心配になった。
ステラは、アーチ状のものが特にお気に入りらしく、ずっと上を向いて歩いている。
 
「ステラ、ちゃんと前を見て歩かないと………わぁっ、ステラ!」
 
転ぶよ、とシンが言い終える前にステラは大きく後ろに傾きかけていた。
シンは慌てて手を伸ばし、華奢な体を受け止めようとする。
 
そして腕に確かな重みを感じると、シンは大きく息を吐き出した。
 
「だ、だから言ったのに!」
「え…………なにを?」
 
きょとんと聞き返してきたステラに、シンはうっと詰まった。
 
そうだ、自分は言ってはいない。
言いかけたところでステラに先を越された。
ステラの方が一枚上手―――この場合、この言い方が正しいかどうかは置いておく―――だったということだ。
 
「シン?」
 
自分の腕の中で小首を傾げるステラに、シンは眉を下げ笑う。
 
「そうだね、何も言ってなかった。それより、大丈夫?」
「うん、ありがとう…………」
 
シンの腕から離れ、ステラはほんのりと笑みを浮かべた。
その表情に、シンはかぁっと赤くなる。
 
すると、二人の元にもう一組の男女が近づいてきた。
 
「まぁまぁ、ステラさん。お怪我はありませんでしたか?」
 
心配そうに声をかけてきたラクスと、彼女に寄り添うキラだった。
 
シンとステラは二人に向き直る。
 
「あ、先に行っててすいませんでした」
 
シンが頭に手をやりながらそう言うと、キラとラクスは揃って首を振った。
 
「いいんだよ、僕たちが歩くのが遅かったんだから」
「そうですわ、お気になさらないで下さい。それよりも………ステラさん」
 
ラクスは少しだけ表情を引き締めて、ステラを見遣る。
 
「上を見てばかりだと、危ないですわ。ちゃんと足元を見ませんと」
「………うん」
 
たしなめられる様に言われ、ステラは素直に頷いた。
そんなステラにラクスは満足気に笑う。
すると、ふいにキラが吹き出した。そのままくすくすと笑い出す。
 
「ラクスそれって、さっき僕が君に言ったこと……じゃなかったっけ?」
 
紫の瞳が、悪戯っぽくラクスに向けられる。
ラクスは少し頬を染め、それをぷくっと膨らませた。
 
「キラったら………」
 
酷いです、と言いかけてラクスは口をつぐんだ。
 
やはり自分のことを棚に上げた自分が悪い。
 
と反省し、苦笑いを浮かべる。
そしてステラに振りかえり
 
「実は、そういうことなんです。私もずっと上を見て歩いてましたから、キラに言われてしまいましたの」
 
と照れたように言った。
そんなラクスに、ステラはくすっと笑いを漏らす。その隣のシンも思わず吹き出していた。
 
するとキラも、そしてラクスまでも笑い出す。
 
そうやってしばらくの間、四人は光の中笑い合っていた。
 
 
 

『光の魔法の道』から出た四人は、出口のすぐ側に温かい飲み物や軽食を販売している出店を見つけた。
冷えた体を暖めようと、キラとシンの二人でコーヒーを買いに行くことになった。ラクスとステラは少し離れた所のベンチに座って待っていてもらう。
 

「コーヒー四つ、お待ちどうさまでーす」
 
明るい店員の声と共に、カウンターに四つの紙のカップが差し出された。
 
「シン、そっちの二つよろしくね」
「あ、はい」
 
シンは言われた通り、カップを手に取った。
 
湯気と共に立ち上ったよい香りに、鼻腔をくすぐられる。
手のひらから伝わってくる温かさにシンは表情を和らげた。
 
その様を見ていたキラは忍び笑いをもらし、シンに一声かけ歩き出す。
 

「…………あ、そういえば」
 
ふいに声を上げたキラに、その後ろを歩いていたシンはえ、と目を瞬く。
 
「どうしました?」
「うん、あのさ。結局プレゼントはどうしたの?」
 
キラはシンがステラへのクリスマスプレゼントをどうするか悩んでいたのを思いだし、興味深そうに尋ねた。
 
「何かいいのあった?」
「……はぁ、まぁ………」
 
曖昧に返事を返すシンに、キラは肩越しに振り返って目をしばたかせる。
 
「まさか……いいのなかったの?」
「あ、いや、そんなことは………一応、持ってきました」
 
シンは肩から下げたショルダーバッグにちらりと目をやる。
キラはそう、と頷き再び前を向いた。
 
「きっと喜んでもらえるよ」
「……だといいんですけど………」
「大丈夫」
 
乾いた笑いを漏らすシンに、キラは今度は体ごと振り返った。そして穏やかに微笑む。
 
「大丈夫、君が一生懸命選んだものなら、きっと喜んでくれるよ」
「…………はい」
 
小さく頷き、シンははにかむような笑みをキラに返した。
 
 
 
 
 
「本当に綺麗でしたね」
「………うん、綺麗だった」
 
ベンチに腰掛けながら、ラクスとステラは先程の『光の魔法の道』を思い起こしていた。
ラクスは両の手のひらを合わし、柔らかく微笑む。
 
「連れて来てくださったキラたちに、感謝しなくてはいけませんわ」
「………うん」
 
ステラはこくりと頷く。
ラクスとは違い、表情にはあまり出ていないが、彼女は彼女なりに喜んでいた。
 
その微かな変化を見とめ、ラクスは小さな笑いを漏らす。
そして、思い出した。
 
「そういえば、ステラさん」
「……え?」
「シンさんへのプレゼントは、どうされました?」
「…………」
「あらあら?」
 
黙り込んでしまったステラに、ラクスは目を瞬かせる。
しばらく沈黙が落ちると、ステラは呟くように言った。
 
「……用意、できなかったの………」
「まぁ………そうでしたの」
「……どうしよう……シン、怒るかな………?」
 
悲しむ、かな………
 
紅い瞳が曇るのを想像して、ステラは胸に鈍い痛みを感じた。
 
そのままうつむいてしまったステラに、ラクスは淡い微笑を浮かべる。
 
「ステラさん、大丈夫ですわ…………ステラさんはいっぱいいっぱい悩んだんですもの……シンさんはきっとわかって下さいます」
「…………うん」
 

頷くステラだったが、心許なさは消えなかった――――
 
 
 
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聖なる夜に。
 
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